
幼い頃から重度のアトピーに悩み、食と体の関係に深い関心を持つようになりました。転機となったのは断食との出会いです。食をととのえることで、長年苦しんできた症状が少しずつ改善していく——その体験が、私の人生の方向を決めました。
その後、禅の教えである道元禅師の『典座教訓』に出会い、「食事を作ることは修行そのものである」という言葉に強く心を打たれました。いつか精進料理の精神を大切にした宿をしたい。そう思い、まず野菜を深く知るために北海道・十勝の有機農家で研修を始めました。畑で引き抜いた一本のカブをかじったときの、土の香りとみずみずしさ。その体験が、野菜の世界へ進む原点になりました。
その後、小さな八百屋を立ち上げ、築地市場での修行を経て札幌の青果店でバイヤーとして全国の農家を訪ね歩き、野菜の旬と個性を学びました。さらにカリフォルニアの山中にあるリトリートセンターのキッチンで料理に携わり、「料理は人の心を癒し、喜びを生む」という体験を深く実感しました。
帰国後は、京都・花背にある料理旅館にて仲居として修行しました。料理だけでなく、器、花、床の間、空間、そしてもてなす人——すべてが調和して初めて「もてなし」が完成する。その教えの中で、私が目指したいのは料理人ではなく、人を迎え、もてなす人なのだと気づきました。
凪海は、これまでの旅の中で出会った「食」「禅」「茶」「日本の美意識」を一つの場所に結びたいという思いから生まれました。
目の前に広がる早崎瀬戸の穏やかな海のように、ここを訪れる人の心が静まり、本来の自分に還る時間を過ごしていただけたらと思っています。
凪海は、一日一組の宿です。その一組のために、お茶を点て、旬の食材と向き合い、空間を整える。これまでの経験のすべてを、その一組の時間に注ぎながら、一期一会のもてなしを大切にしています。
心静かなひとときを、凪海でお過ごしいただけましたら幸いです。